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by inja369

漫画『亜人』の魅力は佐藤のサイコパスっぷりにある

オピニオン

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僕がいま最も注目している漫画は『亜人』である。この漫画の特徴は、主人公(永井圭:ながいけい)が少年漫画にありがちな熱血かつ他人思いな性格とは全く逆の、冷徹かつ利己主義な思考の持ち主であるという点だ。圭が象徴するように、この漫画は人間の持つ冷酷さ・非情さを中心に描写している。僕はこの漫画の殺伐とした雰囲気が好きだ。

『亜人』を象徴するもう一人の存在が「佐藤」という敵の大ボス。この人物を一言で形容するならば「サイコパスそのもの」だ。感情を微塵も動かすことなく人を殺戮できる、常人とはかけ離れた存在である佐藤は、多くのファンを獲得している。

今回はその佐藤を中心に、『亜人』の魅力について書いていく。

※ネタバレがあるので未読の方は注意してください。

『亜人』とは

亜人公式サイト。音が出るので注意してください。

www.ajin.net

『亜人』のあらすじ

『亜人』とは、桜井画門によって『good! アフタヌーン』で連載されている漫画である。

作中では、「亜人」と呼ばれる不死身の人間たちが登場する。彼らは見た目は普通の人間と同じであるが、何度殺そうがバラバラにしようが再生して蘇るため、人間ならぬ存在として危険視・差別・実験の対象とされていた。

主人公・永井圭は、人並み外れた記憶力を持つ頭脳明晰な少年だったが、ある日交通事故に遭い死亡する。しかし、すぐに再生して生き返り、自分が「亜人」であることが発覚してしまい、世間から追われる身となる。

友人を捨ててまで逃亡する圭は、あるとき「佐藤」という人物に出会う。彼も亜人であり、「亜人が静かに暮らせるコミュニティを作る」ことを目的に活動しているという。しかしそれは全くの嘘であり、彼の本性は「人間をゲーム感覚で殺すことが生きがい」という危険人物だったのだ。それ以降佐藤は、飛行機をハイジャックして大企業のビルに突っ込んだり、政府の要人や大企業のCEOなどを名指しして暗殺を繰り返すなどの凶行を始める。

圭は、人々が無残に殺されていくことに耐えかねて…ではなく、佐藤と同じ亜人である自分にまで火の粉が降りかかり静かに暮らすことができないという理由から、佐藤と戦うことを決意する。

佐藤のプロフィール

「佐藤」とは実は偽名であり、本名はサミュエル・T・オーウェンである。元アメリカ海兵隊員であり、エリート兵だけが所属できる極秘チームの一人になるほどの戦闘力を持っていた。彼はほとんど表情を変えなかったことから、隊員からは「ポーカーフェイス」と呼ばれていた。

サミュエルはある日、ベトナム戦争で捕虜となっている隊員を救出するという隠密任務に、仲間と共に駆り出されることとなる。彼はチームの仲間と共に、その類い稀なる実力をもって、敵にバレることなく無事に捕虜を救出する。

しかし、あとは戦場から引き揚げるだけというときに、サミュエルはわざと銃声を放って敵をおびき寄せた。彼は銃を放つ際、「プレイボ-ル」と言い、心底楽しそうに笑顔を見せた。同僚が彼の感情を見たのはこのときが初めてだった。

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サイコパスとは

佐藤のモデルは、「サイコパス」と呼ばれる人格障害と考えられる。精神病質とも呼ばれ、心理学的には以下のような特徴を持つと言われる。

  • 良心が無い
  • 感情が浅く、表面的である
  • 無責任で問題行動が目立つ
  • 非常によく嘘をつく
  • 一見、口達者で魅力的

※参考

サイコパスとは何か?-私たちが知っておくべき善意を持たない人々

サイコパスは、一般的には無差別殺人を行う犯罪者が多いと言われがちだが、実は社会に適応し、我々と同じように暮らしている人も多いという。中には社会的に成功しているサイコパスもいるという。

オックスフォード感情神経科学センターのケヴィン・ダットン博士は、企業のCEOや弁護士、医者などには強いサイコパス気質があるという見解を示している。

toyokeizai.net

それは、サイコパスのもう一つの側面、「感情に流されない」「勇敢である」「精神的に強靭」「リスクを恐れない」「カリスマ性を持つ」などの特徴が、これらの職業では非常に有利に働くからだ。

佐藤の魅力は徹底した合理性にある

佐藤は、戦闘能力そのものももちろん高く、作中ではほぼ無敵の存在として描かれているのだが、それ以外にもこのようなサイコパス性が魅力だ。

自分が楽しいと思えること、自分にとって得であると思えることのためには、痛みを伴うこと・死ぬことさえも厭わない。例えば、銃などの武器を裏ルートで入手するために、それと交換する臓器を自分から取り出して用意したりする。彼にとってはあらゆることが選択肢に含まれる。目的を達成するためには手段を選ばず、躊躇することなく速やかに実行する様は、見ていて非常に爽快だ。

そんな佐藤は圭のことを気に入っている。それは、圭が自分と同じように合理性を是としている人間だからである。しかし圭はまだ「人間味を振り切ることができていない」ため、佐藤は圭を「こちら側」に誘導しようとしているのである。

『亜人』が読者に問うているもの

資本主義社会においては、サイコパス性を持つことが成功の一つの要因となり得る。学問・ビジネス・人間関係における激しい競争の中では、冷酷さ・非情さ・合理性が求められる場面が多い。特に企業経営者などの立場ではそうだろう。

そのような環境で生き抜くためには、常に「人間味を選ぶか」「合理性を選ぶか」の二択を迫られることとなる。佐藤は圭に対してだけではなく、読者に対しても「こちら側」への引導を渡そうとしているのではないだろうか。そのスリリングなメッセージもまた『亜人』の魅力であると思う。