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by inja369

時間を守らない教授が言ったこと:「有意義なことにこだわれ」

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僕が通った大学のある教授は、とにかく授業に遅刻する人だった。授業開始のチャイムが鳴ってから20~30分の遅刻は当たり前。教室に入ってきても、何食わぬ顔をしている。学生たちも、この先生の授業は時間通りには始まらないとわかっているから、講義室で喋って時間をつぶしたり、わざと遅れて来たりしていた。仮に教授より遅れて教室に入ってくる学生がいたとしても、教授を含めて誰も気にしていなかった。

だけど授業は面白い

だけど、その教授の授業はちゃんと面白かった。教授が教科書を読んで学生がノートを取るだけの一方通行の講義ではなくて、お互いに意見を述べ合う対話形式で、学生が主体的に授業に関わることができた。教授のうんちくも面白くて、予定を無視して雑談で終わってしまうことも何度もあった。僕はその教授が大好きだった。

その教授の授業の魅力は、内容もさることながら、その心地良い解放感だった。時間を守れとか、授業中は静かにしろとか、小中高とさんざん言われてきたルールが、そこには全く存在しなかった。今まではルールでゴチゴチに固められた授業しか知らなかったから、勉強なんてこんなものなんだろうなと思っていた認識が、全部ひっくり返された。嬉しいカルチャーショックだった。高校までと大学じゃ世界が全然違うと言われていたけれど、なるほどこういうことだったのかと思った。

小中高と大学の教育じゃコンセプトが全然違うからこうなっているのだろうなと思う。社会に出て企業に勤めると、ダークスーツに身を包んでビジネスマナーに気を配り、敬語が日常語になるゴチゴチの世界に飛び込むことになる。その社会に適応させるというコンセプトのもとに日本の教育があるのだと思うのだけど、ちょっと窮屈だとは感じていた。

教授が言ったこと

その教授がどんな考えのもとにそんな自由奔放なのか。曰く、「時間にあくせくすること自体にそんな重大な意味なんて無い。みんな気にしすぎなんだよ。どうせこだわりを持つなら、もっと生産性のあることにこだわろうぜ」。

企業に勤めるなら、仕事は基本的にチームワークだ。時間を守らないと足並みが揃わないし、チームメイトの時間を無駄にしたりする。あまりにも時間にルーズだと社会人として力不足だと言わざるを得ない。けど、教授が言いたかったのは、ルールを破るとか迷惑を掛けろとかそういうことじゃないんだろうなと思っている。

その教授は、ゼミの学生と喫茶店に集まるときは遅刻しなかった。守るべきときは守っていた。多分、時間を守ること自体は目的ではなくて、あくまで手段だと考えていたのだと思う。

日本の鉄道ダイヤは世界一正確だと言われている。もちろんそれは素晴らしいことなのだけど、どこかそれを美化しすぎてるきらいがあるのではないか。あわよくば時間の正確さを求めるあまり、他の要素をないがしろにしてはいないだろうか。例えば数年前に、ダイヤに合わせようと速度を上げて走った電車が脱線して多数の死者を出した事故があった。時間を守らないことは信頼を裏切ることだというプレッシャーがあったのだろうけど、もう少しおおらかになってもいいと個人的には思う。

その教授に教わったことは、時間をきっちり守ること、時間におおらかになることの、どっちが良いということではなくて、時と場合に応じて使い分けるのが大切なのだということ。そして何よりも、「生産性のあることにこだわる」ということ。言われたことをがむしゃらに守るのではなくて、果たしてそれを守る意味はあるのかという疑問のフィルターに一度通してしまう。そういうクセを付けてから、ずいぶんと気持ちが楽になったと思う。

その教授は多分今も、机の上に書類やら文献やらを散らかして緑茶をすすって、いつも通り遅刻しているんだと思う。駅や街中で忙しそうな人を見かける度に、あの人にはそうあってほしいなと思っている。